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これもまた、売れているんだからいいじゃないか、という話かもしれない。
新型ロッキー/ライズが残念なのは、お察しのとおり2017年の東京モーターショーに出品されたコンセプトカー「DNトレック」の出来がとてもよかったからだ。もともと、ダイハツのコンセプトカーは毎回ユニークな提案が多いけれど、その中でも「DNトレック」は完成度が高かった。
コンパクトSUVとしてバランスの良いプロポーション。無駄なラインがなく適度な張りのある面、前後でイメージを統一したランプ類。これらが市販前提と思えるまとまりのよさで置かれているのを見て、実車の発表を楽しみにしていたんである。
ところが、昨年のモーターショーに展示された量産型を見て愕然とした。というか、最初はそれがロッキーには見えず、数秒経って「え?」と。
すでに媒体のデザイナー・インタビューに書いたとおりだけど、シンプルで清潔感のあった「DNトレック」が失敗したアウディみたいな顔になってしまったのは、よりSUVらしい力強さが必要だと判断したのと、OEM先であるトヨタの「デザイン・フィロソフィ」に合わせ込む必要があったからだそう。
いずれも実に寂しい話ではある。仮により力強い表現にするにしても、それは決して派手にするということを指すわけじゃない。そんなことは、つい最近のスズキ・ハスラーのモデルチェンジを見てもわかることで、要はお手軽にやってしまうか否かの違いなんである。
もちろん、最近のトヨタ顔に合わせるため・・・なんて理由はほとんど論外だろう。正直、この話を聞いたときはにわかに信じられなかった。そんな理由で、あのコンセプトカーの素晴らしいデザインを台無しにしてしまったのか?
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ただ、しかしだ。ロッキーもライズも売れているんである。しかも結構な勢いで。
人気のコンパクトSUVの中でも希少な5ナンバーなのが基本にはあるけれど、例によってカスタム好きの日本人にはこの適度に派手な顔がドンピシャなようで。兄貴分の新型RAV4人気もそうだけど、相変わらずトヨタの日本人ユーザーの平均的嗜好を見抜く力は的確だ。
顔が出来損ないのアウディみたいだろうが妙にガチャガチャしてようが、売れてるんだから文句はなかろう。しかも、多くの評論家やジャーナリストだって絶賛しているじゃないか。そんな声があちこちから聞こえて来そうだ。
まあ、遠目から見ればプロポーションはほとんど崩れていないし、リアにはコンセプトカーの面影があるからそのエッセンスは残っているとはいえる。けれども、面や線のコンマ数ミリまで追い込むのが自動車デザインのあるべき姿だとすれば、「DNトレック」の持っていたシンプルで清潔感のある佇まいは一体何だったのかと僕は思う。
(20/02/10 すぎもとたかよし)
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