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一体、誰に向けた誌面なのかなあと思う。
雑誌『NAVICARS』、先月売りの特集は「トヨタが好きで悪いか!」
クルマ好きにとっての「トヨタは眼中なし」という風潮を考えれば、まあ目を引くタイトルではある。
そのトヨタについて、どんな切り口が展開されるのかと編集長の前口上を見れば、章男社長の「もっといいクルマ」なんて掛け声や、C-HRだのプリウスPHVのチャレンジングなデザインと、昨今の「変化の兆し」を掲げている感じだ。C-HR云々で変化を語れるのか?という疑問はともかく、取りあえずいまのトヨタを絡めた話だと思うじゃないか。
ところが、なぜかそうはなっていない。
冒頭のトヨタ車ランキングアンケートでは、ハチロクだのセリカだのMR2だの、もはや消えたクルマばかりが登場し、続くオーナー取材でも同じくハチロクに2000GT、ダルマセリカと旧車のオンパレード。2T-Gエンジンはよかったね、なんて記事もあったりする。
いやいや、さらに「あの時トヨタは若かった」というカタログプレビューも70〜90年代特集だし、レアカー探しもまた懐かし車ばかり。そうして冗談じゃなく、トヨタ博物館の紹介でもって特集は終わる。
かろうじて「いま」を語ったのは、例のWRC復帰とミライの簡単な紹介くらいなんである。
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つまり、昔はこんな面白いクルマがあった。いや、いまでも私はこんなクルマ乗ってますよと、ただそれだけの内容が楽しげに載っている。ここには章男社長の言葉の真意もなければC-HRも出てこないし、好き嫌いの分析もない。
NAVIという一時代を作ったタイトルを借りつつ、とにかく皆一緒になってクルマを楽しもうという、よく言えばポジティブ、そうでなければ脳天期なハッピー指向だけで作られた、まるで豪華なサークル本のよう。
このNAVICARS、前号も「クルマ雑誌は死なない」なんて刺激的な特集を掲げ、しかし中身は心酔する元VAVI編集長をはじめ、ほぼ全員が業界関係者による「クルマ雑誌大好き」インタビューで構成するという暴挙をやっている。
自動車雑誌の生き死にを語るとき、当然いちばんに意識しなくちゃいけない読者(ユーザー)目線を完全に無視し、もちろん社会的な背景もすっ飛ばした、内輪だけによるハッピー光線全開の記事だ。
今号もそうだけど、それこそNAVIで育った僕のような人間には余りに稚拙で物足りないし、かといって昔を振り返ってばかりの記事が若者に受けるとも思えない。だとしたら、一体どんな層に向けて、何を訴えようとしているんだろう?
中身は?だけどNAVIみたいな表紙で、NAVIで活躍していたカメラマンの写真にNAVIで描いていたイラストレーターのカット。NAVIみたいな対談に、NAVIで見たようなコラム、そしてNAVIみたいな編集後記。
一時代を作った冊子の功績を想うと、これほど辛い雑誌はないんである。
(17/04/25 すぎもとたかよし)
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