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ホンダ車のデザインエッセンスって何だ?って話なのかもしれない。
たとえばメルセデス・ベンツのGTにしても、あるいはアウディのR8でも、機構や機能の違いはともかく、どこから見てもメルセデスだし、アウディそのもの。スーパースポーツではあるけれど、その佇まいはラインナップ全体に共通するデザイン言語をそのまま使い、自身の主張をする。
2千万円前後もする特別なクルマなんだから、じゃあ量産車とはまったく異なるデザインを作り出そう、100%スペシャルにしよう、なんてことはないみたいだ。
一方、フェラーリやランボルギーニ、マクラーレンなど、そもそものスーパースポーツメーカーは独自に構築された一貫するスタイリングを持ち、展開している。どの車種であれその存在は一目瞭然だし、伝統に基づいた魅力も備える。
NSXも、初代は当時のアコードやシビックなど量産車の雰囲気を低いアルミボディに落とし込み、ホンダらしく、また実に日本的な佇まいを見せていた。あまりに長いリアオーバーハングなどの難点もあったけれど、より万人向けのスーパースポーツを巧く体現していたと思う。
じゃあ、当然2代目はいまのホンダらしさを、となるわけど、これがなかなか難しいことになっている。
80〜90年代がウソのように独自性を失った近年のホンダデザインは、それを一蹴するべく「エキサイティングHデザイン!!!」を掲げているけれど、残念ながらフィットのボディに切り欠きを入れるような空虚な勢いくらいしか見えてこない。
で、2代目NSXはもちろんそこが問題だ。
たとえば、アキュラを示す横バーと、ホンダの「ソリッド・ウイング・フェイス」を組み合わせたフロントフェイスはかなり煩雑で、そもそも両者の要素を反映する必要があったのかどうか?
まるでミニバンみたいなリアランプは、これもまた量産車を意識したのかもしれないけど、これがスーパースポーツとして味気なく感じてしまっては意味がないのではないか?などなど。
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で、北米チームの女性デザイナー作というエクステリアは、実際には2012年の日本チームによるコンセプトカーが基本で、まるまる日本の空気を反映して出来たもの。当初より初代のコンセプトを堅持するとした北米チームは、だから日本的な表現もそのまま受け継いだのかもしれない。
一般に、2座スーパースポーツは、スリーサイズさえ間違えなければそれなりに見えると言われるとおり、NSXの基本シルエット自体に違和感はない。けれども、迷いが続く量産車のデザインを部分的に採り入れたエクステリアは、それでもってホンダの頂点を、あるいは25年間の集大成を示しているのかといえば、これは相当疑問なんである。
今回、正式発表まで何やら妙に時間がかかったけれど、しかしスタイリングについては、コンセプトモデルの登場以降、何となくそのまま初期案を引きずってしまい、実際の練り込みがほとんどなかったようにさえ思える。
まあ、量産車なら希にそういうこともあるかもしれないけど、何といってもこいつは2400万円のスーパースポーツなんである。
評論家の島下氏は雑誌で、開発と生産が北米主体になってしまったこと、価格が初代の3倍にもなってしまったことから、2代目は僕たち日本のユーザーのものではないと言い切っている。それは今後に期待したいとも。
新型が、そんな風にどこか遠い存在だと言えるなら、それは開発主体や価格だけの話じゃなくて、クルマそれ自体の理解と解釈が難しいことも大きいんじゃないかと僕は思う。
もちろん、3モーターのHVスポーツという成り立ちこそがニッポンらしいとは言えるし、北米に軸を置くこと自体がホンダらしいじゃないか、とも言えるんだけど。
(16/09/05 すぎもとたかよし)
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