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もったいない、というのは変ではあるけれど。
以前から経営不振が伝えられていたピニンファリーナが、先月、インドの自動車メーカーであるマヒンドラ社に買収された。
ボルボやジャガーなど、メーカー自体がアジア資本下に収まるいま、このニュースにそれほど意外性はないかもしれない。とりわけ、中国やインドなどは現在も自動車産業伸張期なわけだから、デザイン工房だって想定内の買い物かと。
なんだけど、個人的には、どうして日本メーカーはこの手の買い物に消極的なのか?とあらためて感じたりするんである。
いや、トヨタ以下、どこのメーカーもいまやすっかり成熟企業であり、かつての成長過程ならいざ知らず・・・という話もわからなくはない。もちろん、各社とも結構な所帯のデザイン部を擁しているわけだし。
けれども、じゃあその社内デザイン部がどれほどの仕事を?となれば、実はそれほど盤石な基礎を築いてるとも思えない。逆に、ある種のデザインの迷走は、インハウスデザイン指向が明確になってからのことじゃないかとさえ思える。
考えてみれば、より成熟度の進んでいる欧州勢では、この辺実にダイナミックな動きをしている。プジョーやフィアットグループとピニンファリーナの協業はもとより、巨人VWはイタルデザインを買ってしまった。
さらに、各メーカー間の人的交流も少なくない。ワルター・デ・シルバなどトップデザイナーがメーカー間を渡り歩き、その都度メーカーのデザインフィロソフィを深めて行くという文化がある。
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そのあたり日本メーカーはほとんど無風状態だ。まあ、国内にもいくつかのデザイン工房は存在するけれど、メーカーデザイン部の人事にかかわるような大きな動きが日常的にあるわけじゃない。いすゞからヘッドハンティングされた中村氏などは、結構例外なパターンだろうし。
もちろん、社内デザインがすべてNGなんて単純なことは言わないけれど、歴代の日本車で「これは」というクルマの多くが外注デザインであるのは間違いのない事実だろう。
だったら、外部工房を傘下に収めるという選択は大いにアリだと思う。べつに、買収したからといって社内デザイン部がなくなるワケじゃないのはVWと同じことだし、他メーカーとの仕事も拒まない独立性を保証すれば、企業としての評価も上がる。
期待できるのは、日常的なコンペ参加による社内デザイン部への大きな刺激だろう。もちろん、会社間の異動もまた 十分な成果を残せる筈だし、結果として悪いことは何もないんじゃないか?
たとえば、和田智氏がアルトやイグニスを手がけているのは、スズキのデザインをすべて変えるというより、デザイン部への影響力の大きさだと分析する声もある。
外注であっても「社内です」という契約が多い日本メーカー。そこに特定のデザイン会社の買収を期待するのはもちろん難しい発想だ。
けれども、魂動デザインで邁進するマツダでさえ、フォード時代のローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏による『流』など、一連のコンセプト展開の経験があってこそだ。マツダはそこでコーポレートデザインとその発信の重要性を学んだ。
そう考えれば、外の才能をできるだけ多く受け入れる余裕と姿勢が、おそらく時代を問わず必要なんだと僕は思う。
(16/01/04 すぎもとたかよし)
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