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最後発組として、果たしてこれでよかったんだろうか。
もはや新車販売の4割に届こうかという軽市場へ本気で取り組もうとするのは当然として、じゃあフルラインナップメーカーがその軽市場に何を提示するのか? が注目されていたところだ。
すでにライバルの二大メーカーはコンマ単位の不毛な燃費消耗戦か、あるいは自転車がそのまま積めるか否かの空間争奪戦で熾烈を極めていて、商品企画としては完全な飽和状態だった。軽メーカーってどうしても既成概念から離れられないんだよね、なんていう。
けれども、ふたを開けてみればNMKVによるデイズも、結局基本は同じだったんである。
ワゴンRタイプのトールボディ、既存ベースの横並びエンジン、明るいノーマルに黒いカスタムというお約束グレード、ターボやタコメーターはカスタムだけという固定概念、上級グレードの内装だけシルバー加飾というお粗末な発想。
いまやどこにでもある「軽」の企画をほとんど踏襲した残念感は、ちょっと驚きのレベルだ。タッチパネルのエアコンや、車外モニター、UVカットガラスなんていうのは単なる機能のひとつであって、それで軽が変わるような代物じゃない。
もちろん、厚みのあるシートをはじめとしたインテリアの質感向上はわかるけれど、たとえばライバルであるN-ONEを凌駕するようなものじゃない。逆に、ノーマルにもしっかりターボを用意したホンダの方がよほど新しい発想を持っているんである。
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唯一評価できるのは、どこかの政党のスローガンみたいな「3本のライン」によるボディだろうか。いや、三菱案によるスタイリングがいいというのではなく、ここまで彫りの深い面を実現し、従来の軽の平板なボディとは一線を画したところだ。内側の設計は相当大変だったようだけど、やろうと思えば軽サイズでここまでできるといういい見本だし、実際軽らしくない質感を出すことに成功している。
それ以外はまあイケナイ。小型車、普通車を作り続けてきた日産が作った初めての軽として、あまりにも無策に過ぎる。これじゃあ、いままでの軽市場に似たような選択肢がひとつ増えただけじゃないか。ある雑誌には「ヘタなコンパクトカーより豪華な内装」なんて書いてあったけれど、それは日産にとって悪い冗談以外の何物でもないでしょう。
先のN-ONEについては、外国車に乗ってきたようなユーザーが、軽云々じゃなく「これがいいと思って買った」なんて例が少なくないそうだ。それは明快な個性や独自のスポーティさなどが備わっていたからこそだろう。
じゃあ、たとえばデイズがいわゆる日産党と呼ばれる人に「思わず買ってしまった」なんてクルマになっているかといえば、残念ながらそうじゃない。もちろん、そこにはそもそも日産コンパクトの底が低くなってしまっているという別の問題もあるんだけれど。
軽というエクスキューズなしのクオリティか、HVの設定か、1リッター以上のエンジン搭載車版を設定してのクロスオーバーな試みか、あるいは出力自主規制の撤廃か。はたまたルノーとの協力による欧州仕様の輸出試行か。
日産が一から軽を作るといのは、それくらいの改革を伴うものと思いたかった。少なくとも、新会社立ち上げによる生産性の向上とかコストの削減とか、そういう内輪の都合がメインの理由じゃなくて。それで販売価格が2〜3万円低くできたとしても、だ。
もちろん、来年のハイトワゴン以降の話はまだ分からないわけで、それこそ魅力あるラインナップを展開してくれる可能性だってあるわけだけど。
(13/06/14 すぎもとたかよし)
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