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up!の登場は、日本のメディアやユーザーをそれなりに試すことになるんだと思う。
その雑誌メディアはとりあえず絶賛モードだ。シンプルだけど新しいスタイル、丁寧に仕上げたインテリア、静かなエンジンに卓越した高速性能、手抜きのない安全装備に戦略的な価格設定。
黒船襲来といった表現も珍しくなく、どの媒体もほとんど諸手を挙げた状態なんである。中には「何という走行性能か!」なんて感嘆を表現する評論家氏もいて、なかなかホットな状況だったりする。
けれどもだ、ここで「らしい」のは、同時に新しいワゴンRも絶賛だし、ノートだって大評判、ミラージュもいいネ、というところなんである。それどころか、雑誌によってはこちらの方が誌面を広く割いていたりするくらいに。
まあ、表現とおりに考えれば、本当に「黒船襲来」だったらワゴンRもノートも撃沈なわけだ。何たってクロフネだから。けれども、「up!に比べてあまりに安っぽいノート」とか、「ワゴンRは高速性能で足下にも及ばない」なんてことはほとんど書かれない。感嘆したって書かない。
ま、言うまでもなく、これはこれ、それはそれ、ということなんだろう。up!は素直にすごいと書くけれど、ノートやミラージュの場合は一転日本車モードで書き、ワゴンRは軽モードで書くと。それを本気で比較したり、本気で語ることは絶対にない。あくまでも“緩く、温く”であって、結局「黒船」が来ても日本のメディアは変わらないと。
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一方、ユーザー側はどうだろう。
先日、前澤義雄氏と連載記事の取材をしているときに、「up!が日本で売れたら革命になる」と氏は語っていたけれど、省燃費・低価格が蔓延するこの市場で、僕ら日本のユーザーはup!に相応の価値を見出すことはできるのだろうか?
いや、180万円出すならアクアを選ぶことに何の不思議もない。パワーウィンドウがまとめて操作できなかったり、リアの窓が下がらなかったり、あるいは自動MTがギクシャクしたりなんてわかりやすい弱点も少なくない。
けれども、その中のたとえば2割のユーザーがup!に興味を持つのかどうか、だ。月に5000人のユーザーが「黒船」の存在に気づき、それがなぜクロフネなのかを理解するのか?
ま、ポロの成功という前例があるのだから、きっとある程度の成功は見込めるんだと思う。ただ、それがこのコンパクトカー王国で大ヒットにつながるのかはまだわからない。もちろん、クロスやGTといったバリエーションが揃うことも重要な条件だろうし。
ボディも走りも安全装備も、基本をしっかり作り磨き込んだ、少々不便なクルマ。基本や安全装備はそれなりだけど、飲み物やティッシュや買い物袋が巧いこと収まり、何でも自動で便利なクルマ。
原発にはノーと言いつつ、次は安倍首相確定とか維新の会分裂なんてTV報道に容易に流されるデタラメな国民性だ。そうして省燃費という「風」にコロリといったユーザーに、どちらがいいクルマかなんていう選択は酷なのだろうか。
いやいや、そもそもそんな安易な正否は語れないという独特の空気や、あるいは「選択肢は多い方がいい」というありがちな肯定論がまだあるとすれば、それこそがいちばん問題なのかもしれないとも思う。
(12/10/14 すぎもとたかよし)
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