●「硬貨も積もれば〜VA/VEの思い出」
「平均すると一台当たり四十五円の“収入”になります」
愛知県半田市、トヨタ自動車グループで自動車の廃車処理を手掛ける豊田メタルの担当者は、解体・選別された非鉄金属材料が流れてくるベルトコンベヤーの傍らに置かれたバケツを指差して、こう話す。バケツの中身は十円や百円などの硬貨。中には五百円玉も混じる。シートの下などに紛れていた硬貨が、廃車の解体・リサイクルの過程で取り出されたものだ。
「ある程度、量がまとまったら、銀行に持っていきます。こうした小銭もばかにならないんです。わが社では一年間に二十万台の廃車を解体しています。合計すると、九百万円の臨時収入になるんです」
豊田メタルの二〇〇一年三月期の売上高は十七億五千三百万円。最終利益は約五千六百万円。年間千万円近い“ボーナス”は、経営を支える、重要な収入源になっているわけだ。
上記は、日経流通新聞に連載されている「環境マーケティング」の9月11日付け記事の冒頭部分である。以下、処理事業者のぜい弱な経営基盤や、処理費用を誰がいつ負担するかというリサイクル法の課題等について述べている。
皆さんも車内を掃除した時など、百円玉を見つけてちょっぴり嬉しい気分になったことがあるでしょう。(^J^)
さて、今回のよもやま話は環境問題についてではない。「乾いたタオルを絞る」と言われるトヨタのコスト低減活動の一コマが、上記記事から想起されたのである。
トヨタは、ピラミッド型組織がかっちりと構築され、人材も金太郎飴的で個性に乏しく、日本的集団主義の権化であると言われる。しかし、各部門(主に技術、生産、営業、海外、管理部門)の独立性が非常に強いのも実態である。
こうした場合、多くの企業はセクショナリズムが台頭し、衰退の道を歩む。その危険性を「豊田家」という求心力でうまく均衡させ、各部門を切磋琢磨させ、総合力を高めているのがトヨタである。
トヨタでは、新車開発やモデルチェンジに際し、経理部門が主管する「原価企画」は、「製品企画」と並ぶ極めて重要な業務として位置づけられている。
企画の初期段階は技術部門が主導するため、往々にして新技術や新機能の採用が積極的に検討され、性能や乗りごこちの向上はもとより、目に見えない環境・安全対策や品質・耐久性にいたるまで(過剰に)強化されがちである。
コストアップ要因は目白押し。で、VA/VE活動の出番となる。
VA(Value Analysis
価値分析) VE(Value Engineering 価値工学)
製品やサービスの必要価値(品質・機能)を最低のコストで実現するため、構造、素材、製造方法などについて評価・分析し、コストダウンを図る活動。
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某日、新型車に採用予定のシートのVA/VE検討会が開催された。営業部門の企画担当者として私も参加した。各グレード毎に数種類のシート素材と試作シートが並べられ、原価が提示された。
肘当ての大きさをもう少し小さくしたら…、ヘッドレストの前後調節機構を簡素化したら…、シートバックやサイドなど目に見えない部分は同じ色合いの安い素材でいいのでは…、などなど意見が飛び交う。
当初は、僅か数円のために何もそこまでケチらんでもと思わぬでもなかったが、塵も積もればなんとやら、数万、数十万の生産台数となると大した金額となる。これぞ、量産効果!
原価企画・管理が行き過ぎると、みすぼらしいクルマ=売れないクルマ=モデルチェンジの失敗となってしまうため、製品企画の担当者と結託して、経理を欺く策を弄したこともありました。
(01/10/11 わたなべあさお)
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