●「クロスオーバー」
「クロスオーバー」とは交差、混合の意味で、交通の分野では高架道路や跨線橋を言う。音楽の分野では、1970年代に登場したジャズにロック、ラテンなど異なったジャンルが混じって生まれた新音楽形態を言い、一般には「フュージョン」と呼ばれる。
十年ほど前ジャズに熱中し、主だったアルバムを買いまくり、聞きまくった時期がある。ウエイン・ショーターらが結成した「ウェザー・リポート」の同名アルバムや、チック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエバー」など、代表的なフュージョンアルバムはもちろん持っている。
起業してから、ゆったりと音楽に浸る時間はほとんど無くなってしまった。このコラムを書きながら、数年ぶりに棚から引っ張り出し、パソコンのスピーカーで聞いて見たが、当時と同じくやっぱり好きになれない。
クルマの世界にも「クロスオーバー」が登場した。先月日本でも発売されたダイムラー・クライスラーの「PTクルーザー」。1940年代のクラシックカーを彷彿させる、レトロでありながら超現代的な奇抜な外観。ミニバンやワゴンに匹敵する後席の居住性や実用性の高さ。発売以降人気沸騰、工場はフル稼動状態が続いている。同社は「全く新しい分野の車であり、車種や用途などはオーナー自らが定義づけるもの」と語る。
トヨタが5月末に発売した「オーパ」。オリジナリティに富むデザインばかりでなく、ミニバン並みの室内空間や多機能性、高級乗用車のような洗練された走りや静粛性を、5ナンバーボディで実現した新タイプの車である。
既存車種の特質や概念を寄せ集めた、このような分類不能な車を米国の専門家は「クロスオーバー車」と呼ぶ。
セダン、そして日本ではサッシュレスのスタイリッシュハードトップが全盛だった時代から、ここ十年、ミニバン、RV、SUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)…、新しい概念のクルマが次々登場した。
トヨタは、大ヒットした「ヴィッツ」のプラットホームを使い、「プラッツ」「ファンカーゴ」「Will Vi」「bB」の兄弟車を発売した。トヨタのラインアップでは、ヴィッツ、ファンカーゴ、bBが「2BOX」、プラッツとWill Viが「セダン」に分類されている。何とオーパも「2BOX」である。担当者はさぞかし苦労していることであろう。
スターレット・カローラに始まりコロナ・マークUへ、そしていつかはクラウンに。メーカーが引いた代替路線に乗っていれば良かった高度成長時代はとうの昔に終わった。ユーザーも賢く成長し、メーカーはどんなクルマが売れるのか、どんなクルマを作ればいいのか分からなくなった。
ジャズが生まれたニューオリンズは、アフリカやヨーロッパ、カリブ、インディアンなど様々な人種が混在、ジャズ音楽そのものが発生時からクロスオーバーだったのである。 一世を風靡した「クロスオーバー」は、ジャズの大衆化、商業化に貢献はしたものの、結局廃れた。
「クロスオーバー車」は、新たなジャンルを創造しうるのであろうか、それとも一時の徒花で終わるのだろうか。(00/08/26 わたなべあさお)
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