●「サンルーフとムーンルーフ」
クルマの世界で“販売の神様”と称されたのは、トヨタ自販の創業社長、故神谷正太郎氏である。氏が昭和10年の国産トヨタ車販売に際して打ち出した「一にユーザー、二にディーラー、三にメーカー」は、トヨタの販売理念として連綿と引き継がれてきた(はずであった)。
昨今あまり聞かなくなったが、一時「CS(顧客満足度 カスタマー・サティスファクション)」という言葉が業界を席捲した。トヨタもご多分にもれず、全社をあげてCS向上に取り組んだものである。これにより、販売店のショールームやサービス工場の美観は大幅に向上、営業スタッフの接客態度もそれなりに良くなった。しかし、相変わらず閑散としている営業所を見るにつけ、CSの精神が本当に理解された上での実行かどうかは甚だ疑わしい。
さて、先月来Car24オリジナルの「新車データベース」構築作業に勤しんでいる。フリー検索機能を備えた業界最強のデータベースシステムがまもなく完成する。(乞う、ご期待!)
各車のスペックや装備は、各社のカタログやWebサイトで確認、入力作業を行ったが、データをチェックしていて改めて気づいたことがある。一般人の通常知識では理解不能な横文字表現が多いのは、私が商品企画を担当していた当時と何ら変り無い。
驚いたのは、表示が統一されているはずの装備やスペック名が当時とほとんど変っていないのである。トヨタはESC(エレクトロニック・スキッド・コントロール)と呼び、他社はALB(アンチ・ロック・ブレーキ)などと呼んでいた「ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)」が「ABS」に統一されたように、既に他の装備類も統一されたものと思い込んでいたのである。
相変わらず、トヨタは「サンルーフ」を「ムーンルーフ」と呼んでいるし、「クリスタルルーフ」と称してしているメーカーもある。キーをドアに差し込まなくてもドアロックを開閉できる装備は、「キーレスエントリー」「リモコンドアロック」「ワイヤレスドアロックリモコン」など。走行中アクセルペダルから足を離してもスイッチ操作で一定の速度を自動的に保つ装備は、「オードドライブ」「クルーズコントロール」「オートスピードコントロール」などなど…。紛らわしいことこの上ない。
マーケット・インやユーザー・オリエンテッドなど声高に叫んでも、メーカーにはユーザーが見えて無かったに違いない。結果、CSも一時のブームに終わり、外資の傘下で再建に汲々とするメーカーが続出した。
神谷氏の言葉も、忘れられようとしているのだろうか。(00/05/12 わたなべあさお)
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