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コラム&レビュー

新車心象風景:日産・セレナ

 
 ここはやっぱり先代そっくりのモデルチェンジについてかな、と。


 いま売りの「ベストカー」誌で前澤義雄氏も書いているけれど、最近この手のモデルチェンジが結構ある。フィット、オデッセイ、キューブ、エクストレイル、スイフトあたりがそうで、基本、先代のヒットを失わないためだ。

 そんなことじゃあデザイナーの存在意義が、なんて声もあるけれど、そこが微妙なところなんである。「キープ・スタイリング」での仕事の幅も商品の是非も、それこそデザイナー次第で大きく違ってくると僕は思っている。

 たとえば、フィット。

 新しいフィットは、どこから見てもフィットだけれど、しかし先代とは明らかに異なる文法で解釈され、再構築されている。単にヘッドランプがシャープになったとかじゃなくて、ボディラインもリアパネルもサイドグラフィックも、すべて真新しいシャープさで貫かれている。

 先代のイメージを強く残しつつ、別のクルマとしてまったく新しい個性を与え、なおかつそこに「進化」をしっかり感じさせるという、とんでもなく難しいことに成功しているんである。どうやらユーロシビックと同じデザイナーらしいんだけれど、ここはまさに腕の見せどころでしょう。

 日産のキューブも基本は先代と同じなんだけど、こちらは完全に外してしまった。一見突飛な先代は、実は要所を端正なラインでまとめていて、いい意味でのカジュアルさとまとまりのよさがあったんである。

 ところが、ブルドッグをイメージしてその端正さを捨てた新型は、代わりに得た曲線主体のボディに、残念ながら先代を上回る新しい個性も明快な進化もなかった。単に先代に“手を加えた”だけだ。インテリアの質感向上には頑張ったんだけど。


 
 じゃあセレナは?っていうと、そのどちらでもない空白な感じ。つまり、とくにコレといったテーマがなくて、まさにデザイナーの仕事がないような。

 エクストレイルやスイフトも似たようなところがあるけれど、おそらくは先代を明らかに越える代案がなかったパターンじゃないかと。

 スイフトはワンモーションにするとかAピラーをボディ色にするとか、いろいろな意見があったらしいけど、結局役員は先代まんまを選んだとか。でも、それって単に役員が保守的なんじゃなくて、要は先代を明らかに乗り越え、周囲を納得させるだけの別回答がなかったんだと思う。

 で、中途半端に変えるくらいなら評判のいい先代そのままにしよう。じゃあ、あとは面をしっかり磨いたり素材の質感を上げたりしましょうって。

 実際、セレナは先代の高い面質を保ち、たとえばサイドウインドウ下端からヘッドランプまで続くラインのような先代の端正さを、新型ではリアピラーからキレイに引っ張って来るラインで維持している。

 けれども、じゃあデザイナーの仕事としてどうかと言えば、やっぱり幅が狭いなあと思うし、新味はどうにも見当たらない。先代の勢いをかって売れるかもしれないけど、フィットとはリ・デザインの次元が違う。

 本来は先代までのマーチやレガシィのように、イメージを継続しつつしっかり新しい造形を提案するのが基本だろう。セレナがモデル末期までどんなに売れようと、次のステップを生み出すのが。

 ただし、仮に周囲の状況でそれが許されないとしても、それでもデザイナーの活躍の幅は残されている筈だ。だからセレナには、たとえキープ・スタイリングの方向性であっても、ユーザーの想定を越えたひとつ上の提案を見せてほしかったと思う。

(10/11/22 すぎもとたかよし)

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