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コラム&レビュー

新車心象風景:トヨタ・パッソ

 
 一連の騒動で発表イベントが自粛・中止になって「可哀想に・・・」と思ったけれど、聞けば女性タレントを招いての「ハナ女子大学入学式」なんて趣向だったらしく、だったらなくてもよかったかなと。ただ、このどうでもよさそうなイベントが新型パッソ(今回はブーンではなく)を象徴しているのは間違いないとは思う。


 「トヨタ最小、プチトヨタ」の先代がえらく売れたのは、まずプチトマトな内外装、約100万円からというお手頃価格、そしてクルマ全体に漂う“気兼ねなさ”じゃなかったかと。

 で、まず内外装。よく見ると結構シャープなスタイリングだった先代に比べ、今度は最初から可愛い方向の曲線や面の多用で、それをグレードとして後押しするのが+Hanaヴァージョンだ。

 べつに開発の人に聞いたわけじゃないけど、これ森ガールでしょ。実際、カタログにはそういう女性が載ってるし。いや、森ガール自体はいいんだけど、丸いカタチとか、アースカラーなボディ色とか、ココアな室内とか、そういう次元のコンセプト?でクルマ作っちゃうのがすごいなあと。

 それから価格。そりゃまあ安いのに越したことはないけれど、同じホイールベースのシャシーや2種類のエンジンは部分改良こそあれ基本先代のキャリーオーバーだし、VSCやTRCに加え、サイド、カーテンエアバッグも何といまどき全車オプションに。

 それにヘッドレスト一体型シートをはじめ、内装なんかはちょっとビックリするくらい質感が落ちている。インパネトレイやドア内張りの安っぽさは、自慢の森ガール演出をもってしてもコストダウンがバレバレで、先代は元より、同じ女子向けのアルト・ラパン、いや自分ところのミラ・ココアにも届いてないんじゃ?

 そのダイハツが軽用を改良したCVTこそ新規らしいけれど、それ以外に走行、安全、燃費、環境技術にこれといって見るべきものはない。誇らしげなリッター22.5キロの燃費はホンダやマツダのライバルを越えるものでもないし。


 
 もうひとつは気兼ねなさ。自分の部屋みたいに気兼ねなくてどこが悪い?なんて言われそうだけど、パッソのそれは限りなく存在感を消す方向性に感じてしまう。

 とくに愛着を感じるでもないボディ、何か自己主張できるようでもないインテリア。普段着でバンっと乗って、荷物ポンと放って、ダーっと走って、それだけみたいな。じゃあ、それがいい意味でのカジュアル感覚かというと全然違う。たとえばスズキのスプラッシュのように。

 いや、そこに個性を出すのが先の+Hanaということなんだろうけど、森ガール感覚なんてハッキリ言ってオプションレベルの話でしょう。開発初期段階から女性チームを加えた結果がこれか、と実に残念じゃないか。いいのか女性社員はこれで?

 じゃ、そういうことならパッソなんかやめてしまえ! と言いたいのかというと、実はそうじゃない。ある意味逆かも。

 つまり、とくに時代を先取る新提案もなければ高い思想もなく、ただただ女子の好みそうな雑貨やアパレルの香りを内外装にふりかけただけの安いクルマが、毎月の登録ベストテンの常連になるほど売れる。それをトヨタが善しとするのか否かってことなんである。

 まあ、そうだからこういうモデルチェンジなわけだけど、だったら「若者のクルマ離れ」だとか「クルマの味」とか言わない。100万円を105万円にしてサイドエアバッグを、110万円にしてVSCも標準にできないんだったら「安全」とか言わないでよ、と。

 佐藤部長やキムタク、今井美樹にリラックマ。いまやほとんどのクルマをイメージだけのCMにしているように、ウチはHV以外クルマの内容なんかどうでもよくて、イメージで売れればいいですからってハッキリ言えばいい。だから今度も「ハナ女子大学」なんですって。

 それなら、新しいパッソはアリなんである。

(10/02/18 すぎもとたかよし)

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