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9月20日号の「ドライバー」誌を読んでいたら、ヨーロッパのディーゼル事情という趣旨の記事があって、小はVWルポの1.4から大はメルセデスの4.0まで、数台のヨーロッパのディーゼル車が紹介されていた。日本のメジャー誌でディーゼル車を扱うなんていまどき珍しいなあ、などと思っていたら、他の雑誌、たとえば「カー・アンド・ドライバー」や「ベストカー」等々にも同じ様な記事があるじゃないか。
一体何事なのかと思いきや、どうということはない、ディーゼルエンジンの燃料ポンプで大きなシェアを持つボッシュ社が、デモンストレーションとしてこれらのクルマを集め、評論家、メディアを呼んでの試乗会を開いたということなんである。一見何てことなさそうな記事だけれど、僕はふたつの点で実に腹立たしく感じてしまった。
■知っているクセに
上記の各雑誌記事の内容はほとんど似たようなもので、コモンレール方式と呼ばれる最近の高圧噴射式ターボ・ディーゼルエンジンは、振動、騒音が低いばかりでなく、動力性能も素晴らしい。高トルクを生かした走りは多くのガソリン車を凌ぐものである。もちろん燃費も優れているし、昔のディーゼルのような黒煙などほとんど確認できない、といったもの。そして最後に日本もディーゼルについて再考してはどうかと締めくくる。
冗談はやめてくれ! 何をいまさら言っているのか!
だってそうでしょう?ヨーロッパでこの種の高性能ディーゼルエンジンが年々シェアを伸ばしているなんてことはもう何年も前から言われていることじゃないか。コモンレール方式が有望なんてこともすでに常識だし、いまや日本のメーカーだって現地で生産しているんである。そもそも海外試乗や取材の機会が多い評論家や雑誌記者が、そんなことを知らない筈がないんである。それをあたかも「いま知りました。驚きました」みたいな顔してこんなふざけた記事を書くなんてどういう了見か?
メディア側の人間としての自覚を欠いたこの安易な仕事が実に腹立たしい。
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■子供の遣い
もうひとつ僕が許せないのは、メーカー(今回は部品)側が用意した試乗会なんていうものがあって、はじめてこうした記事を書くという受け身の姿勢なんである。
都知事の諸々の発言によってディーゼルエンジンはこの国においてすっかり悪玉になってしまった。メーカーもまた自社のカタログから次々にディーゼルモデルを落としていった。そして何となくディーゼルを扱うこと自体がタブー的な雰囲気にすらなってしまった。
けれども、一口にディーゼルと言ってもピンキリなわけで、少なくともディーゼル自体が悪なのではないことは、プロの評論家が一番よく知っている筈なんである。が、彼らは、そして雑誌メディアはそのタブーな雰囲気を安易に受け入れてダンマリを決め込んでいた。
それがどうだ?
メーカー側がイベントを行うやいなや、一瞬にして態度は180度変わって、ディーゼルエンジンは素晴らしいとくる。評論家やジャーナリストというのは、おかしなタブーが蔓延しているときにこそ自ら進んでペンを振るうのが仕事の筈じゃないのか?
他人が用意したテーブルに乗って「良かったよかった」なんてとてもプロの仕事じゃないし、あんまりに無責任だろう。これじゃあ、子供の読書感想文と同じじゃないか。仮にヨーロッパと日本のエンジンに性能差があるのなら、それをキチンと伝えて妙なディーゼルバッシングの軌道修正をするのが本来の仕事だろうに。
普段は世間の流れにダラダラ乗って、どうでもいい新型車の解説に誌面を使っているのに、いざメーカーのお誘いがあったときにだけ「社会派」のマネゴトみたいな記事を書くなんて、腹立たしいを通り越して、もはや情けないんである。
(02/10/06 すぎもとたかよし)
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