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■クルマのまわりで「プライバシーガラスは何を隠す?

はじめに
 通称プライバシーガラスと呼ばれる黒いガラスを標準装備にした新車が増えているが、これはいかがなものか?
 実は先日このコラムの読者の方からそんな内容のメールをいただいたんである。こうしてお便りをいただけること自体もありがたいことだし、個人的にも興味があったので、今回はその話にしようと思う。

いい筈がない
 まず大前提の話として、黒いガラス(といっても色々種類はあるという)が、安全上好ましくないのはまぎれもない事実だろう。メールの方は、まさにその安全上の理由から反対キャンペーンを張っているのだけど、しかし、そんな活動を目にしなくたって、ドライバーの動きが見えない、あるいは見えにくいのは危険に決まっている。

 最近読んだ本で、あるドイツ人の自動車教習所教官曰く、ドイツ人ドライバーは極めて法に忠実で、信号や標識にはしっかり従う。それに比べイタリアのドライバーときたら、信号や標識の無視はもちろん、車線は守らないわ急発進、急加速、急右左折をするわ、車間距離は取らないわときてる。じゃあ、彼は自分が運転するならどちらを選ぶかといったら何とイタリアだという。続いて彼曰く、イタリアでは何故そんな状態でも大丈夫なのかといえば、ドライバーが常に周囲のクルマの動き、即ちドライバーの動きを見ているからで、相手の目の動き、ステアリングの動きで次の状況を予測しているからだという。
 一方ドイツはというと、一見遵法精神に満ちているようだけど、逆に言えばそれは信号や標識には従っているものの、他のクルマの動きは見ていないということで、実はそちらのほうが危険だというお話だ。

 まあ、何とも極端な話だけど、要するにクルマを運転する上で、ドライバー同士のコミュニケーションが無いのは致命的だということで、考えてみれば相手を見てなけりゃ、歩いていたってブツかるだろう。
 したがって、この観点だけでもメーカー、あるいはディーラーが自社のクルマにプライバシーガラスを標準装備するということに合理的な正当性はなくて、いかに彼らがクルマやその運転、そして事故というものまでをも軽視しているかがよく分かるんである。

メーカーの意識
 さて、僕は別の次元でもまたこのプライバシーガラスに疑問があったりする。いや、生理的に嫌悪感を持っているとさえ言えるかもしれない。それは、そもそもこの黒いガラスを「カッコいい」とか「スポーティ」と捉えてしまうメーカーの美意識と志の低さなんである。

 ご存知のようにいまのブームを作ったのは若者、とりわけ走り屋系、VIPカー系などと称される若者達で、真っ黒のガラスがまさに「そのスジ」のVIPカーに見えるのが嬉しいのか、彼らはせっせと愛車に黒いフィルムを貼り続けたんである。その繁殖力は凄まじく、カー用品店はこの市場を見過ごせなくなって、次々にフィルム施行を導入していった。「カッコいい」とか「スポーティ」などというイメージはこの若者中心のブームがベースになっているんだろう。
 ま、ここまでの話なら僕にもまだ分からないではない。彼らにとってそれは派手なエアロパーツや車高落しと同じ次元のモディファイの一環に過ぎないのだから。

  けれどもメーカーの立場ともなれば、
「何という悪趣味な」
「ウチのクルマのスタイルを台無しにしやがって」
くらいのことを言うと思うじゃないか。それがまさか自ら進んで黒いガラスを作って、あげくの果てに「標準装備」にするとは、もう僕には到底理解できないんである。で、案の定、メーカーが標準装備にしているのはRVを除けば、ほとんどがスポーツグレードときたもんだ。繰り返すけど、どうして黒いガラスが「スポーティ」なのか? どうしてそういうことをメーカーが言ってしまうのか?
 RVにしたって「大切な家族のプライバシーを守る」なんて言うけど、黒いガラスで隠さなきゃいけない家族のプライバシーって一体何なんだ。口を開けて寝ている子供の顔? 奥さんの着替え? いやいや、結局流行の黒いガラスを「売り物」にして、まんまとお父さんにも拡販してしまえ、ということでしょ。
 いや、世の中には本来の意味でこのガラスが必要なことだってあるのだろうけど、それは単にオプション設定してあれば済むことでしょう。僕が嫌悪感を抱くのは、本来の目的からはずれたものが、単なる流行によって幅を利かせている現状が気持ち悪いからだろうと思う。

 僕は安全よりも「商品」としてのプライバシーガラスを選択するメーカーの志の低さ、責任感の欠如、そしてこれを「スポーティ」などと言ってはばからない美意識の低さには全く賛同できない。この責任感の欠如たるや、あの外務省の役人並じゃないか。
 そして例によって、多くの評論家陣もこの話題には無頓着なようだ。安全上の問題が十分予測され、ユーザー自らが警告を発しているにもかかわらず、だ。
 ま、もしかしたら彼らも「カッコいい」なんて思っているかもしれないのだけど・・・。  

(02/05/23 すぎもとたかよし)

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