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■自動車雑誌を斬る!「違いを探せ!」

久しぶりの感覚!
 今回は久々に初心に帰ったつもりでこのコラムを書いていて、これが何やら悲しいような情けないような、けれどもなつかしいようなヘンな感じなんである。
 初心、そう、僕が初めて本を出版したそもそものキッカケは、次々と送り出される新車を「誉めちぎり」そして決して「けなさない」自動車雑誌に大いなる疑問を持ったからで、まあそれはつまり極めて単純な動機なんである。
 その最初の本を出してから10年が経って、多くの評論家の仕事や雑誌記事も少しは変わってきたように僕には思えていた。とくに若手評論家の登場による世代交代により、少なくとも新車紹介記事はだいぶマトモになってきたと僕は感じていた。
 いや、それがとんでもない間違いだったんである。実は10年前と何ら変わっていなかったのだ。

メーカーの代理人?
 少々古くなるけれど、僕が驚いてしまったのは6月5日に発売されたdriver誌の冒頭、トヨタ・ブレビスの紹介記事だ。
 このクルマ、マークU3兄弟であるチェイサーの実質的後継車とも言われたりしていて、実際もう一台の兄弟車クレスタにはベロッサなる後継車が登場した。で、このブレビスのキーワードは「アクティブ・エレガンス」だそうで、アクティブなライフスタイルを持つ人達に向けたエレガントでコンパクトな高級FRセダンなんだそうだ。
 けれども、ご存知のとおりトヨタの小さな高級FRセダンといえばモックンのプログレがあった筈で、話は当然ブレビスとプログレはどこが違うんだ、ということになる。
 まあ僕に言わせれば、同じプラットホームを使い、ドアパネルまでも共用したこの2台のセダンに「違い」なんかどこにもないのだけど、いやいやところがどうだ、この誌面ではその「違い」について実に細かな解説が綿々とつづられているんである。その姿たるや涙ぐましいくらいだ。
 チェイサーというクルマの存在感が少々古くなって、そのネームの刷新を図り、同時に販売店対策となる新しいタマが必要になった。そのために既存車を化粧直しして、大した金もかけずに新しいクルマをササッと作ってしまえ。こんなに明らかな状況を目の前に、しかしその評論家は懸命にこのクルマの独自性を訴える。


もはや滑稽
 けれども何が面白いって、自ら「これは全く新しいコンセプトのクルマだ」と言っておきながら、話はプログレとはここが違う、プログレよりここが新しいと、とにかくいちいちプログレが登場するんである。
 いや、これはチョット笑ってしまうんだけど、8ページの特集記事の中に、ブレビスという名は16回使われている一方、何と「違う」筈のプログレついては何と30回も使われているんである。これって倍ですよ、倍。これじゃあ、一体どっちのクルマの紹介記事なのか分からないじゃないか。チョット意地の悪い見方だけど、でもこれはもう笑うしかないでしょ。
 中には「4.5・1.7mにこだわったがために、スタイルの伸びやかさ、面の張りをスポイルしてしまったプログレよりも・・・」なんて下りもあって、もうプログレの立場なんてあったもんじゃない。じゃあ、そこまで言うなら「ブレビスはプログレよりもいいクルマです」と書いてあるかといえば、もちろんそんなことも書いてない。
 同じようなクルマだけど実は全然違うんだと説き、多くの場合でより進化したと言い、けれども既存車を真っ向否定するようなコトも言わない。まるで神業のような涙ぐましい記事だけど、一体何が悲しくてこんなことにエネルギーを使っているのだろう? 

 冒頭にも書いたけど、僕はここ数年、自動車評論家の世代交代が進んで、新車紹介記事もそれなりに変わってきたように感じていた。
 けれども、この記事を書いたのはまさにその若手の人間で、僕は多少なりとも期待していた評論家だったんである。それだけに驚きも大きかったし、失望も大きかった。「ああ、まだこんなことをやっているんだ」という失望だ。
 その驚きと失望故に、僕は思わず初心に戻ってしまったんだけど、でもネ、もうやめましょうよ、こういうのは。

(01/07/07 すぎもとたかよし)

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