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■新車心象風景「トヨタ・WiLL VS」
■トヨタ WiLL VS
 (2001年4月6日発売)
■主要諸元
 排気量:1800t
 最大出力:190PS/7600rpm 18.4kgm/6800rpm(2ZZエンジン搭載車)
 外寸(o):全長×全幅×全高=4385×1720×1430(2WD)
 東京地区標準価格:175〜205万円

欲しくはないけど
 異業種合同プロジェクトであるWiLLブランド第一弾は、「気持ちは分かるんだけどねェ・・・」というノリで企画された女の子向けのカボチャの馬車だった。第一弾がそうして徹底的に女の子向けなら、第二弾は当然徹底的に男の子向けになるというワケだ。
 で、今回のコンセプトは「クール&スマート」という、何やら安売りスーツかタバコみたいなコピーなんだけど、ある開発担当者の言葉によれば、渋谷の夜の闇にスーッと消えて行く姿がハマるような「カッコ良さ」をイメージしたそうである。そういうのを「カッコ良い」と言うのかどうかはともかく、僕にとってはこのセリフを聞いただけで十分「絶対買わない」気持ちにさせるモノ凄い発想で作られたクルマなんである。
 でも、だ。ある部分で僕はこのWiLL VSに小さな希望を感じている。

こだわりのトヨタ車
 「希望」って何だ?希望だなんていうと少々言葉がキレイ過ぎるけれど、それは何かといえば「こだわり」である。
 このサイトをご覧になるような方は既にご存じだと思うけれど、このクルマのデザインモチーフは米軍のステルス爆撃機だ。ほぼ時を同じくして発表されたオペルのスピードスターもそうだというから、これは何か関係があるのかないのか。まあ、それはともかくほぼ全てのボディラインに「鋭角」を入れた、つまりエッジの利いたエクステリアは、なるほどステルスのエキスたっぷりで、とくに黒や紺のボディとなればなおさらだ。また、レーダーをモチーフにしたというメーター類は、モチーフというよりレーダーそのものだし、操縦桿を模したシフトノブもまた然りなんである。他にも左右非対称のフロントシートは外装色とのコーディネイトまで考えられたカラーリングをしているなんていうウリもあったりする。
 要するにこのクルマには、エクステリアからインテリアまで、かなり「こだわり」を感じさせるんである。これは1台のクルマを作る上でとても貴重な姿勢ではないかと僕は思っている。

どこまでこだわる?
 WiLL VSだけでなく、近頃のトヨタ車のデザインはなかなか面白いと言われている。たしかにエスティマやセリカ、ヴィッツおよびカローラファミリー、オーパやソアラなどは随分チャレンジングなデザインワークが施されているようだ。
 で、たとえば日本とヨーロッパで大成功を収めているヴィッツを見てみる。ヨーロッパスタジオでデザインされたこのハッチバックは、短い全長に高いルーフという難しい課題を見事に消化したフォルムを作り出し、大きく愛嬌のあるヘッドランプや、段をつけ、張りを持たせたボディサイドで個性と質感を持たせている。一方、インテリアではセンターメーターを採用した緩やかな曲面でもって、これまでにないユニークな造形を行っている。

 これらもまたひとつの「こだわり」ではあるけれど、WiLL VSと違うのは、特別に具体的なモチーフを与えるのではなく、クルマ全体としてひとつの普遍性を持たせるような、また、新しい世界観を生まれさせるようなトータルなデザインワークがあるように僕には感じられるんである。つまり、ヘッドライトやテールランプ、メーターやシフトノブにシートの色や形など、パーツのひとつひとつに具体的な「こだわり」は感じられないということだ。

やればできる筈
 で、このふたつの「こだわり」についてどっちが良いかとか悪いかとか、僕の言いたいことはそういうことじゃあない。あえて言えば常に両方の「こだわり」が必要なんじゃないか、という話だ。
 だって考えてみてくださいな。これまでトヨタ車で前後のランプからメーター、シフトノブ、ステアリング、シートに至るまで、これほど「こだわり」を持ってデザインされたクルマって他にあります?このライトに至っては内蔵されたウインカー部分の形を前後で相似形にするほどのこだわりぶりじゃないか。
 ここで僕が冒頭に書いた「希望」の話に戻るわけだけど、僕はこういうこだわり、ここまでのこだわりを通常のラインナップを成すクルマ達にも是非反映させて欲しいんである。
 先述のヴィッツやカローラも十分チャレンジングではあると思うのだけど、そこへWiLL VSの「こだわり」を持ち込めば、もっと魅力的なクルマになると思うんである。いや、僕は何も具体的な何かをモチーフにしろと言っているんじゃあない。「こだわり」の濃度をさらに上げようということだ。ヴィッツのライトやステアリング、シフトノブなどの造形・色・素材、これらひとつひとつについてもっと「こだわり」があれば、また一段高い商品価値を持つことができるのではないか?そういう話なんである。

こだわりは特別じゃない
 WiLL VSは特別プロジェクトの中で生み出されたが故に様々なこだわりを見せることができたのだろう。これまでのトヨタの既成概念にとらわれないで、「何でもOK」という条件で考えることができたのである。けれども、本来クルマはそんな時限プロジェクトなんていう環境下でなくとも、同様の環境で発想され作られるべきじゃないのだろうか。と、言うか、そういう「意気込み」と「こだわり」を常に持って開発するのが当たり前なんじゃないのか?
 トヨタはいま、保守方向にも革新方向にも自由自在な商品展開をして、ますます業績を伸ばしている。その中には実際面白い商品も少なからず見当たる。
 けれども、「目に見えるモノ」あるいは「手に触れるモノ」全てに、もっともっとこだわりを持ったら、現行車だってより魅力的なクルマになる筈だ。

 お陰様で僕は夜の渋谷の街に消えて行くような生活はしていないので、間違いなくこのクルマを買うことはないと思う。ただ、WiLL VSというクルマは、そういう点で小さな「希望」が詰め込まれた存在だと僕は思っている。


(01/05/21すぎもとたかよし)

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